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「しかし、女の子に変化が訪れました。
1人の男の子と出会ったからです」
委員長の話が続く。
「その男の子は、クラスで初めて話した男の子でした。
女の子は、いつものように変な子を演じて好かれないようにしようと思いました。
しかしその子と話したとき、この人はなにか違う、と思いました。
それから女の子は、その子のことが気になるようになりました」
彼女はゆっくりと立ち上がると、うしろで手を組んで歩き始めた。
「男の子は、女の子がどんなに変なことを言っても、どんなに変なことをしても、困ったように笑うだけでした。
クラスの副委員長に指名したときも、ちゃんと引き受けてくれました。
責めるでもなく、嫌うでもなく、ずっと傍にいてくれました」
茜色の影が、委員長の足元をついてまわる。
「女の子は思いました。
そうか、この人は友達なんだ。
私が変な子だとか、そんなことを気にしないで付き合ってくれる、本当に本当の友達なんだ。
友達だから一緒にいて楽しいし、色々なことも話せるんだ。
女の子はとても喜びました。
一緒にいるのが楽しくて、多くの時間を過ごしました。
そして、いつしか女の子は」
一歩一歩踏みしめるように歩いていた委員長は、僕の前で足を止めた。
「男の子のことを、好きになっていたのです」
一陣の風が、長い黒髪をもてあそぶ。
「青山くん」
僕は委員長の顔を見上げた。
「私、ホントはね、普通の女の子なの。泣いたり、怒ったり、誰かを好きになったりするし、普通の女の子だから……。好きな人に自分の気持ちを笑われたりしたら、少しだけ、悲しいかな?」
彼女の膝は震えていた。
目には涙を溜めていた。
目の前にいるのは、僕の知っている委員長ではない。
緊張して、傷ついて、今にも泣き出しそうなのに、それでもそんな姿を見せまいとふるまう、いじらしい女の子がそこにいた。
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