ほんとのこと

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  「ごめん」 立ち上がって頭を下げた。 それしか、できないと思ったから。 「僕は委員長のことを、なにも知らないで……」 なにも知らないのに、知った気になっていた。 知った気になって、いい気になっていた。 だから、彼女を傷つけた。 本当に、僕は最低な人間だ。 「謝らないで。話してなかったんだから、知らなくて当たり前。よく考えてみると、いきなりあんなこと言われたら誰でも驚くよね?」 でも、彼女の声に責めている色はなかった。 「私の方こそごめんなさい。素の自分を出せなかったのは、恥ずかしいっていう気持ちがあったから。馬鹿だよね。本当のことを言わなきゃ信じてもらえないのに……。顔、上げて?」 頭を上げると、委員長は目の端を指でぬぐっていた。 「だけど、私はあなたのことが好き。この気持ちは変わらない。こればっかりは、私の本当の気持ち。答えはなんでもいい。だけど、どうか受け取ってほしい」 彼女は両手を差しのべてきた。まるで、贈り物をするかのように。 その手のひらには、彼女の気持ちが乗っているのだろうか。 トクンと、僕の心臓が大きく脈打った。
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