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「ま、今日のはウチのオゴリやから。“借り”を返すっちゅーことで」
「だからその“貸し”を自覚していないと言うに」
「ええから食っとけ!ウチが一方的オゴってるだけなんやから」
楽しそうに笑いながら霞は俺の背を叩く、酷く機嫌が良いようだ。
幾本も押し込められた筒から木製の箸を抜き取る。
割箸でないことに訳もなく安堵した。
それでもその横に置いてある塩や胡椒、ニンニクが入った小瓶から目を背けることに努めて。
「……頂こう」
落ち着くためにも合掌し、意識して声を出す。
小さく息を吐いた後、箸を用いて麺を啜った。
その味でようやく認知する。
「……美味い、な」
蓮華で掬って飲んだスープがその答を後押しする。
認めたくなかったというわけではなかったが、出来るなら保留にしておきたかった思いもあった。
しかし認めざるを得まい。
間違いなく、これはその名を冠す料理である。
「そやろ?この店の醤油ラーメンは気に入ってんねん」
畜生、やはり醤油なのか。
食材と調味料によって異界と確信するとは思わなかったぞ、戯け。
「そや、ついでに餃子も取ったから喰うてみ?」
善意であることなど疑いない声で餃子、しかも羽付きの乗った皿が霞と俺の間に置かれる。
「すまない、な」
あァ、これでラー油と酢に目を向けるしかなくなってしまった。
街にある料理店で現実逃避に力を入れている俺は酷く滑稽だった。
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