其ノ参

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  「ま、今日のはウチのオゴリやから。“借り”を返すっちゅーことで」 「だからその“貸し”を自覚していないと言うに」 「ええから食っとけ!ウチが一方的オゴってるだけなんやから」 楽しそうに笑いながら霞は俺の背を叩く、酷く機嫌が良いようだ。 幾本も押し込められた筒から木製の箸を抜き取る。 割箸でないことに訳もなく安堵した。 それでもその横に置いてある塩や胡椒、ニンニクが入った小瓶から目を背けることに努めて。 「……頂こう」 落ち着くためにも合掌し、意識して声を出す。 小さく息を吐いた後、箸を用いて麺を啜った。 その味でようやく認知する。 「……美味い、な」 蓮華で掬って飲んだスープがその答を後押しする。 認めたくなかったというわけではなかったが、出来るなら保留にしておきたかった思いもあった。 しかし認めざるを得まい。 間違いなく、これはその名を冠す料理である。 「そやろ?この店の醤油ラーメンは気に入ってんねん」 畜生、やはり醤油なのか。 食材と調味料によって異界と確信するとは思わなかったぞ、戯け。 「そや、ついでに餃子も取ったから喰うてみ?」 善意であることなど疑いない声で餃子、しかも羽付きの乗った皿が霞と俺の間に置かれる。 「すまない、な」 あァ、これでラー油と酢に目を向けるしかなくなってしまった。 街にある料理店で現実逃避に力を入れている俺は酷く滑稽だった。
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