其ノ参

5/41
3139人が本棚に入れています
本棚に追加
/148ページ
  皆は知っているだろうか? 拉麺とは中華の様相を呈しているがしかし、列記とした日本料理の一種であるということを。 それは支那そば、中華そばという名からも判るはずだ。 確かに起源は中華、大陸から発したものであろう。 長い歴史を持つ文化圏だ、恐らく探せば出てくるだろう。 だが、完成形を容易く笑って無視出来ない。 判っている、だが至極不要な、己の不可解なしこりを感じるのだ。 醤油と見紛うばかりのスープの色。 鶏ガラから抽出したであろう香り。 うどんや素麺等、その他の麺とはまた違った食感を持つ中華麺。 薬味として細切りにされた葱、筍の発酵品であるメンマ。 海藻を寄せ集めて乾かした焼き海苔、煮込んだ時間が想像し難いほど柔らかい叉焼。 そして、おまけとばかりにスープ浮かぶ鳴門。 白地に混ざる桃色の渦巻きが無性に憎い。 「……あァ、そうか、是は拉麺というのだな」 拉麺である、ラーメンである、らあめんである。 ……すまない、少々俺も混乱しているようだ。 俺が座るのは厨房に面した赤い長机を前に、丸い木の椅子に座っている。 店の門に掛かるは暖簾、それに記される字は拉麺・幸楽(コウラク)。 完全に日本語読みである。 酷く、頭が痛かった。
/148ページ

最初のコメントを投稿しよう!