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◇◇◇
黄巾党の一団を撃破し、投降した者の整理など戦後の処理が終わって数日後、俺に休暇が言い渡された。
「……一応聞いておくが、俺の立場は客将、厳密には傭兵という立場であるよな?」
「ええ、私はそのように認知してそのように管理し、そのように貴方を運用する心算よ」
「詠ちゃん、もう少し言い方を考えても……」
「否、良いのだ月嬢。明け透けであるということは、それだけ俺に価値を見出し最低限の信用を得ている証なのだから」
そして、俺に信を預けようとしていると解釈してよいならば文句も無い。
「その『何があっても信用するから言ってみろ?』って表情をどうにかするなら腹にいくらでも隠してやるわよ」
「……中々具体的な表情だな。大筋思っていることは間違ってないが」
「もう少し歯に衣着せられないのアンタは!?」
壁にある棚には書物が幾冊と並び、二つある大き目の卓には規則正しく書簡が並んでいる。
部屋は広く床には質素な装飾の絨毯が敷かれ、窓からは柔らかな陽光が差し込んでいる。
……硝子が張られていたが、気にするのは無駄である。
その進んだ技術に驚くばかり、と完結しよう。
「異なことを、欲したところで信は得られぬ。ならば此方から預け、信を得ようとするのは当然のことだろう?」
「……交渉って知ってる?」
「詠嬢の方が立場は上だ、遠慮は要らん」
「……ああもうこの訳の判らない敗北感は何!?」
「え、詠ちゃん!?ちょっと落ち着いて」
座し癇癪を起こす家臣を立つ主が傍らで抑えている、なんとも可笑しな光景だ。
この部屋にいるのは月と詠、そして黒の和服を着流しに黒の帯を巻いた俺がいた。
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