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死した俺の向かう先は地獄ではなかった。
三途の川を渡った憶えはない。
六銭を払った憶えもない。
ならば俺は生きているのか?
いや、俺は憶えている。
全身が瓦礫に圧し潰される感触を。
尖った木の柱が腹蔵を貫く感覚を。
全身から血潮が零れ落ちる悪寒を。
魂が啜られ、掻き消えていく痛みを。
我が一族を斬った悲しさと、その仇を斬った虚しさを。
だが、俺には体があった。
感覚がある、熱がある、痛みがある。
心臓は力強く鼓動し、胸は一定の拍子で上下している。
生きている。
なら、此処は何処だ?
“生きている”ならば幽世(カクリヨ)ではなく現世(ウツシヨ)のはず。
そして俺は、状態の確認を開始した。
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