第一章 万屋時雨

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 腹が減っていたのも事実なので、まずはヤックで腹ごしらえをすることにした。 「いらっしゃいませー」  さっきの裏道を途中から抜けると、店からそう離れていない場所に出る事ができるので十分程で目的地に着いた。 「で、何食うお前等」 「ボクと桜はいつもと同じでいいよ」  んじゃ、俺もいつもと同じでいいか。 「じゃあ、ハンバーガーセットのドリンクはカフェオレで一つと、ビッグヤックセットのサイズアップを二つ、ドリンクはコーラとメロンソーダで」 「かしこまりました、お席でお待ちください」  番号のプリントされた札を渡される。  おっと、忘れてた。 「それから、ストローは一つ子供用にしてくれ」  店員は一瞬不思議そうな顔をしたがすぐに応じてくれた。うん、ここはいい店だ。 「お待たせ」  桜達は注文をしている間に周りに人が少ない角の席を取っていた。ヒナギクに気を使っての事だろう。  数分すると注文した商品が運ばれてくる。 「きたきた」  俺と桜は早速ポテトに手を伸ばす。 「…………」  視線を感じ顔を上げると由貴が俺と桜を見ていた。 「へいへい、いただきます」 「いただきます」  どちらが俺でどちらが桜かは言わなくてもわかると思うが、前者が俺、後者が桜である。 「もう……、いただきます」  由貴は手を合わせ呟く。由貴は外食の時もこういうことにうるさい奴である。俺達には理解できないポリシーでもあるのか、食事前と食後の礼儀的な事にはうるさかった。だが一方で食事中の事は余程ふざけた事をしない限りは何も言わないという事を考えると、非常に半端なポリシー思わないこともない。 「んしょ……」  ヒナギクの方に目をやると、胸ポケットから出て服をつたいテーブルに降りている所だった。こいつは基本的に俺の皿から勝手に食うので、俺の皿の横辺りに座るのが定位置となっていたりする。 「それで、これからどうするかは決めたの?」  桜がコーラを飲みながら訊いてきた。なんと答えようか考えていると、由貴がヒナギクをじっと見ている事に気づく。俺もつられてヒナギクを見ると子供用のストローが包んである薄い紙状の袋を持ち、その片方を開けようとしているところだった。
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