1人が本棚に入れています
本棚に追加
/13ページ
商店街の少し離れにある広場の野球場から、カーン! という金属が何かを弾いた様な音が響き渡る。
「こりゃあ入ったな」
ベンチでオッサンが満足そうに頷くのが見えた。そして数秒後にボールは音も無くフェンスを越えた。
「ナイスバッティングお兄ちゃん!」
腰の辺りまでふわふわとした栗色の髪をした女の子が元気にバンザイをする。
この言葉通り、今の金属音は俺がホームランを打った音だ。俺はゆっくりと塁をまわる。
「お兄ちゃん、はい」
「ん、ありがとな沙奈」
少女からジュースを受け取って、頭を撫でてやる。
この子は香坂沙奈。現在中学三年生の妹だ。
「さすがしぐちゃん。今月はみんなにちゃんとお給料が出せそうですよ。……三千円ですけど」
沙奈の後ろからもう一人女の子が歩いて来た。右手には電卓の画面を開いた携帯とペン、左手には女の子らしいイラストの描かれた手帳を持っている。
「うーん、やっぱり電気代でしょうか? しぐちゃんと桜ちゃんの食費も大きいですし……」
「何をブツブツ言ってんだ、プラスになるだけマシだろ?」
この子は日暮眞子。俺達一家の財布を預かる者である。肩まで伸ばした赤髪と童顔が特徴で、とりあえず我が家の家事と経済的管理、仕事のスケジュール、その他諸々を管理してくれている。
「まあまあ、いいじゃないのお母さん。時雨と僕とでその分稼げば」
眞子の後ろからニコニコとした顔で桜が話しかけてくる。
「うぅ、私まだ高校一年生……」
眞子が泣きそうな顔で抗議する。
この男は見波桜。女みたいな名前だけど一応男である。長い黒髪を後ろでくくっており爽やかな雰囲気の持ち主だ。なんか腹立つが、笑顔で立っているだけで女の子が寄ってきそうな顔立ちをしている。
「桜、次の打順が回ってきたよ」
また違う奴がやって来て桜にバットを渡す。
「ありがとう由貴」
桜はバットを受け取り、笑顔を向けた後走っていった。
こいつの名前は神谷由貴。綺麗な顔つきに、腰まで伸びた流れる様な銀髪を後ろで結んでいるのが特徴的だ。女みたいな顔だか一応男である。こいつも学校で立っているだけで女の子が寄ってくるのだが、この女みたいな容姿のせいで、初対面の場合は大抵男が寄ってくる。
最初のコメントを投稿しよう!