第一章 万屋時雨

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「今日も旨そうだな」 「ありがと、そう言ってくれると嬉しいな」  由貴は俺の言葉に素直に喜ぶ。 「そう言えば、ヒナギクはどうしたの?」  なかなか顔を出さないもう一人の住人に気づいた由貴は、キョロキョロと辺りを見回す。 「ん? ああ、あいつなら……」  制服の胸ポケットをピシッと指で弾く。 「あいたっ、何をするかいきなり!」  ヒナギクが胸ポケットから顔を出す。 「もう少し優しく起こせんのか主は!?」  俺は無言でテーブルを指差すと、ヒナギクはむぅっと納得できない顔で唸る。 「食わないんだな」 「バ、バカ者! 食べるに決まっておろうが!」  俺が胸ポケットに指で押し込もうとすると、慌ててポケットから這い出し、テーブルの上に座る。 「いつもの朝だねぇ」  俺達を見ていた由貴と桜が笑いながら見ている。  今では俺達二人のやり取りを笑顔で見ているが、最初に由貴と桜にヒナギクを見せた時はそれはもう酷かったものである。青筋を浮かべて絶句する桜に、びびって悲鳴を上げる由貴と大変だった。まあ、変な巫女に見えないこともない服を着て、普通に喋って自分は空間を操る神だと言い張る身長十センチ位の女の子と言うのもなかなか恐怖ではあるが、結果としてはこうして家族の一員になっているのでいいんじゃないかと思う。 「食わんのか、時雨?」  ボーっとしていたのか、ヒナギクが怪訝そうにこちらを見る。 「ん、わりい、食うよ」  あまり時間も無いので急いで食うことにした。  時は進み登校中。  いつもより二人少ない由貴と桜とヒナギク、そして俺の四人で歩いている。由貴と桜は俺の両側、ヒナギクは胸ポケットに入り、何かの歌を口ずさんでいた。大方、昨日の歌番組で流れていた歌だろう。沙奈と眞子は依頼で出ていていないので今日は四人で登校である。  さて、時間は少し戻って一昨日の昼休み、なんとなく桜と二人でゆったりと過ごしていたる時まで遡る。 「ねえ香坂君、ちょっといいかな?」  昼食を食べ終え、残りの時間を桜とでも潰そうかと考えていた時、一人の女生徒が話しかけてきた。 「ん、なんだ?」 「友達から聞いたんだけど、香坂君って報酬さえ払えばお願い聞いてくれるっていうお店をやってるんだよね?」  どう考えても仕事に繋がりそうな会話だったので肯定する事にしておいた。  お店と呼ぶには微妙な所だけどな。
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