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「ところでさ。
物は相談なんだけど?」
僕は突然、何を言うつもりだ?
心哉は、自分自身で驚いた。
「皆川さんと柴田さんが、今、航技研でアパルーサ4を作ってる」
「え?」
美加の驚いた顔。
彼女も心哉と同じように、アパルーサの血統は、既に途絶えたと思っていたのだ。
「僕と……
一緒に来てくれないか?」
美加は黙って聞いている。
永遠の夢、忘れ掛けた夢。心哉には、言葉を選んでいる余裕はなかった。
「とぎれた、夢の続きを、僕と一緒に、見に行かないか?」
美加はうろたえた。まさか、こんなところで、それもいきなり、空への夢が甦るなど、つい先刻までは想像もしていなかったのだ。
黄昏の空に一番星。仲間たちと過ごした日々の情熱が今、美加の胸に蘇り始める。
「待って。
いきなりそんな……!」
一度は断りかけて、美加ははっと息を飲んだ。
美加を見つめる心哉の目。その瞳は決して澄んではいないが、視線はたくましいほど力強い。そして、口元の微笑。
6年前の夏の日の夜、彼女が愛したままの心哉が、今、彼女の目の前にいた。
「断るだけ無駄だよ、ミィカ。
君みたいな、生まれついての宇宙屋が、一度宇宙の味を覚えたんだから。
絶対に、いつか宇宙へ帰りたくなる!」
こんなに力強い心哉の声を聞いたのは、何年振りだろう。
「随分、強引なのね」
美加のこの一言に、心哉は、白い歯を見せてニッコリと笑った。
「なんてネ。
柴田さんの受け売りなんだ。
でも、僕も、本当にそうだと思ってる」
「……もし、それでも私が断ったら、シンちゃんどうする?」
心哉の視線と、その力強さに気付いたときから、美加の決意は固まっていた。
それを心哉に悟られるのが妙に気恥ずかしくて返した質問だったが、無駄だったようだ。顔が笑ってしまっていたのだ。
そして心哉も美加に合わせて、冗談めかした答えをよこした。
「君をひとりじゃ歩けないようにして、背中に背負ってさらって行くよ!」
鼓動が高鳴る。
息が苦しくなる。
胸が締め付けられる。
「シンちゃん!」
「なぁに!」
「だいすきっ!」
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