春にはまだ遠い

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でも意地悪に吹き付ける風が耳元でヒューヒューと鳴き続け、また僕はさっきの波音が聞き間違いであったと落ち込んだ。 雪に半ば埋もれた、通行止めの看板の前に車を置いて歩き出してから30分は経つだろうか。 たまに思い出したように雪は気まぐれに降り、時に烈しい風と共に僕の行く手を遮った。 膝まで積もっている雪原の中を歩くのは想像以上に辛く、まるで携帯電話のバッテリが切れるように急激に体力が奪われる怖さが僕を襲う。 時計を見ると深夜2時を少し越えた所だった。満月の明かりがあれば、雪原はかなり明るい。たまに月が隠れると暗く感じるが、ほのかに周囲を見る事は出来た。 むしろ本当の闇とは、雑踏溢れる街の中にしかないのかもしれない。 白い息を吐くと、僕はまた歩き出した。 彼女が死ぬまで、あと僅かな時間しかない。
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