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第三話
トゥルル~トゥルル~
とも
ピピピピ~ピピピピ~
とも聞き取れる
警報音が
辺り一面に
鳴り響いていた
もう
病院の中に入った時から
まるでスローモーション
雲の上をふわふわと
歩いていたような
感覚から
はっと我に帰る
はい
家族です
それだけ答えるのが
精一杯
それじゃ今から
器械を準備して
処置をしますからと
看護婦さんは
走って消えていく
若いドクターは
院内用の
携帯電話で
指示を仰いでいる
あ~
やっぱりな~
こんな事だろうとは
お袋から電話を
もらった時から
嫌な予感はしていた
お袋は
身内の死期が近くなると
俺を見舞いに行かせる
わざとなのか?
無意識なのか?
それで
あとどのくらい
持ちそう?
そう聞いてくるのだ
あ~あ~
またやられたよ
とりあえず
爺さんの家に
電話をして
おばさんに
この今の状況を
連絡する
わかった
すぐに行くから
行くからと言っても
裏にうれしい気持ちが
顔を出しているのが
手に取れる
爺さんの息子
お袋の兄
つまりおじさんは
三年前に
爺さんよりも先に
亡くなっていて
おばさんは
よく爺さんの事を
お荷物だと
こぼしていたのだ
お袋にも
もちろん電話する
お袋は
ほっとした安堵と
寂しい気持ちが
交差していた
行くからそう答えてくる
慌てなくていいから
気をつけてゆっくり来て
それだけを伝える
女房に
電話して来たよと伝え
病室に入る
二人部屋に
爺さん一人が
横たわっていた
誰も来る様子もなく
病棟の外れの
静かな静かな空間だった
俺と女房と
爺さんだけがまるで
無人島に
置き去りにされたみたいに
つづく
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