その指で紡いで。

2/4
前へ
/4ページ
次へ
寝苦しい夜。 季節はまだ、夏とは言えなかったが それでもその日は、この北国でも今年初めての真夏日だった、とニュースでやっていた。 ムッとくる暑さ。 汗ばんだ身体に、タオルケットが纏わり付く。 ふと涼しい風を感じて目が覚めると 彼女は、恐ろしい程嫌いなの、と言っていた眼鏡姿で 薄暗い明かりの中、本を読んでいた。 彼女が大好きだと言っていたその小説は、ボロボロになるまで読み込まれ、いつも彼女の枕元にあった。 僕が目覚めたのにも気付かずに、不細工な横顔で、ひたすら文字を追っている。 小説を読みながらも彼女の左手は、僕が寝苦しくない様にだろう、ひたすらに団扇を扇いでいる。 さわさわと心地好い風が、僕の髪を揺らす。 どれくらいの時間、彼女は起きているのだろう。 いつも睡魔に負けて先に眠ってしまう僕は、彼女がいつ眠っているのかわからない。 時折目覚めた時に、声をかけてくれたり、頭を撫でてくれる所を見ると、あまり夜は眠っていないのではないか、と思う。
/4ページ

最初のコメントを投稿しよう!

8人が本棚に入れています
本棚に追加