第一章

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「ときどき会いに来てくれませんか」 茶髪はシーツを広げながらいった。 はあ、と衛藤は気のない返事をする。 「時間を見つけて来るようにはしますが」 「自分の母親なんだから、もっと気にかけてもいいと思うけど」 若者らしい率直な言葉に、むっと腹が立った。 お前に何がわかる。 教師だった母の姿が重なった。 茶髪に対する怒りと困惑は、失禁した母の姿へと変わる。それから遣る瀬無い思いとなり、胸のなかに消えていった。 こいつに云っても仕方ないのだ。 携帯がバイブした。 鍵に当たってチャリチャリ音を立てている。 衛藤は茶髪に背を向け、廊下に出る。
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