第一章

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午後二時になって雨足が強まった。 駐車場に車を停め、ドアを開ける。 薄汚れた灰色の海を覗き込むように、老人ホームが建っていた。波間を縫って舞い上がった風が、強く吹きつけている。 玄関まで来てなかに入ると、横殴りの風は完全に遮断された。シンと静まりかえっている。 音を失った世界みたいで、気味が悪い。 九月に入って連日降り続いている雨のせいで、館内は凍った海のように重い。 廊下を覗く。 窓から差しこんだ光が、ほの暗い陰となって伸びている。 ホールには誰もいなかった。 テレビを観ている人も、車椅子にのった人もいない。 普段おしゃべりなおばあちゃんや忙しなく走るヘルパーの姿も見当たらない。
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