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部屋に入ると、母が窓に立って外を眺めていた。
鉛色の雲が右から左へと、空を舐めるように移動していく。
湿気を含んだ風が、地面からひんやり伝わってきた。
衛藤は悲しげな眼をして母をみつめる。
やつれた頬。
力ない横顔。
痩せしなびたほそい身体。
六十代半ばだが、優に七十を超えてみえる。
艶を失ったぼさぼさの髪がはだけ、色褪せた藤色のパジャマを着ている。
目は凛としているものの、そこに意志と呼べるものは存在しない。
それでも身なりを整えるあたり、教師たらんとする矜持が感じられる。
その姿は、蒼白いろうそくの炎を思わせる。
一瞬近寄り難い気持ちになったが、すぐにそれを打ち払った。
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