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私は自然と『何か』の正体を求めるように、家とは逆方向に一心不乱に走った。
何かが私を呼んでいる。
その何かが私を求めている。
――どれくらい歩いただろうか。どうやら見える視界も気にならず、ひたすら歩き続けたようだ。
気付けば、私の目の前には遥か遠くの空に届きそうなくらいの大きくて、太い老いた杉の木があった。
そうか、これは夢だ。
きっとそうだ。
私は溜息一つして、
杉の木に近付こうとした瞬間。
杉の木に向かって私を押すように、大きな風が吹いた。
私は振り返ろうとしたが、それを風が拒むかのように自分の体が一切動かない。
自然の力には敵わず、声も出せず抵抗も出来ずに目の前が真っ白になった。
ついには、体のバランスを崩して立ってはいられなくなったのだ。
ふわりとした柔らかい感覚に襲われたが、今度は暗闇の中へ放りだされた感覚に陥った。
記憶はここまで。
気を失った後のことは覚えていなかった。
「ん……」
目を覚ますと、暗い空が視界一杯に広がっていた。
猛禽の大群が声をあげてその空を激しく飛んでいるのが見える。
私は痛い頭を抑えながら、ゆっくりと起き上がった。
酷く疲れた。体がだるいし、所々ズキズキとする。
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