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「その生地…俺たち下の者にはとても買えなさそうだ…どっかのお貴族様か?」
別に、厭味を込めているつもりはないが、無意識に言い方がきつかったのかもしれない…麗の顔は不愉快そうに歪んでいた。
「気にさわったか?悪いな。俺は他のやつらよりは貴族とかへの偏見はないつもりなんだけど…」
言いながら、清明はロープを取り出し、獣の足へと結びつける。
「いや、君らが金持ちを嫌いなのは知っている…それに俺は貴族じゃない」
声は必死に感情をおさえてるような様子だった。
そこには、怒りなのか、恨みなのか、深い負の感情が見え隠れしていたが、清明は聞かないふりをした。
「ふーん、まぁいいけど…でもまぁ確かに金持ちの坊っちゃんは、こんな事は知らないだろーな」
清明は太いロープの端を持つと、木に登りはじめる。
太い木の枝まで到着すると、ロープを持ったまま地面の方へと飛び降りた。
「麗、ちょっとロープ引っ張るの手伝ってくれ」
なかなかに大きな獣だ。
さすがに清明一人で木に吊すには骨が折れる。
麗は質問をすることを諦めたのか、清明の傍まで行くと二人で勢いよくロープを引いた。
『こいつ…見かけによらず力がありやがるな』
二人でも大変だと思っていたのだが、思いのほか獣はあっさりと上へ上がって行く。
清明は一瞬驚いたが、驚きを口にすることなく次の指示を出す。
「そのまま出来るだけ引っ張っといてくれ」
清明は麗が支えている間に、木の根元あたりにロープをまわし、結び付けた。
「よーし!完了、もう手ぇ放していいぜ」
釣り上げられた獣は赤い血をしたたらせながらユラユラと釣り下がっている。
あまり、気分のいい光景とは言い難かった。
「こうやって血を抜くのさ」
「何のためにだ?」
「食うために決まってんだろ?」
即答された言葉に麗は表情を歪めた。
「嫌なら食わなくてもいいけどな、こんな山ん中での食料なんて限られるだろーが?食えるもんは食えないと体力もたねーぞ」
言いながら、ナイフの血を拭き取り、清明は再びもと来た道を引き返しはじめる。
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