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あれを食べることに抵抗はあったが、清明のいうことももっともなので、麗はそれ以上は何も言わない。
そして、彼女の行動と今の状況を照らし合わせて別の質問をしてみた。
「今日はさっき居たあたりに休むつもりか?」
「あぁ、まぁ、もう少し血の匂いの届かないとこに移動してからだけどな」
清名が少し離れたところに獣を吊るしたのは、寝ている間に血の匂いに誘われた獣に狙われないためだ。
当然、食料にするために吊るした獣が他の獣に奪われる可能性がゼロではなかったが、過酷な地で生きている獣は警戒心が強いだろうと清明は考えていた。
いかにも罠ですというように吊るしたところで、食いついてはこないだろうと…。
奪われたら奪われたで仕方ない、程度の大雑把な考え方ではあったが、野育ちなりの知識と経験がそこに活きていた。
「さて、麗、食料は何か持ってるか?」
今日、休む場所を決め、荷物を地面におろした清明は伸びをしながら問いかける。
「果物なら少しはあるが…」
「俺も、りんごが2個…しかもだいぶ傷みかけてやがるからな…お前のはまだもつか?」
「あぁ、山に入る前にとったものだから、まだ大丈夫だろう」
「んじゃ、今日は俺のりんご食えよ。どうせならいろいろ協力といこうぜ?」
「それは構わないが…さっきの肉は?」
「あとで取りに行くさ、俺の飲み水はだいぶ減ってるしなぁ…。肉を洗うためにも、何処かに川でもあれば良いんだけどな…ここを拠点にいろいろ探してくるか。麗、火は熾せるか?」
「あぁ、火打石があるからな…」
「へー、良いもん持ってるな。んじゃ頼んでいいか?」
そう言って清明は荷物を置いて、その場を離れようとする。
「おい、荷物を置いて行く気か?」
最初の警戒心は何処へいったのか、と少々驚いた声音で麗は清明を呼び止めた。
清明はニヤリと笑うと、ポンポンと腰に付けた小さな袋を叩いた。
「ほんとに取られて困るもんはこの中さ。それに…本気で盗みを働くやつが、わざわざそんな忠告すっかよ」
清明は手をひらひらさせて木々の中へと消えていった。
その清明の言葉に麗はハッとする。
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