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「そうだ」
そんな話を聞いていると、喉の渇きで何度も死にそうな思いをして旅してきた自分が馬鹿らしく思えてくる。
「嘘だろ~。お前どんだけ運良いんだよ…」
麗の不機嫌がまだ直っていないのかは、その表情からは読み取れなかったが、麗はそれきり何かを言い返してくることはなかった。
「んじゃ、俺は肉取ってくるわ」
そう言うと、清明は立ち上がって歩き出す。
「あっ」
何かを言おうとして、麗はすぐに口をつぐんだ。
「何だ?」
「いや、何も…」
麗の返答を聞き、清明は気にした様子も無くそのまま進んでいった。
清明の後姿を見送りながら麗は一つため息をついた。
「あいつと話すと調子が狂う」
肉もとい吊された獣のもとへ行こうとする清明を見て思わず「一人で行くのか?」と言いかけたのだ。
先程会ったばかりの赤の他人がどうなろうと、知ったことではない。
協力しようとは言ったが、そこまでしてやる義理はないはずだ。
ふと、清明と出会った時の光景が麗の中に過る。
助けようと思ったわけではない。
ただ目の前にいたから獣を切った、結果たまたま清明が助かったのだ。
「…協力か…あいつに死なれると確かにこの先やりにくいな」
このたった数時間を過ごしただけだが、時々癇にさわるやつだという事はわかった。
そんなやつが死んだところで何も感じはしないが…
清明の向かった先は血の匂いの充満した場所。
「これも協力のうちということにするか…」
麗は立ち上がると、清明の荷物を持ち、歩きだす。
火を消さないのは危険かと感じたが、すぐに帰ってくると思い直し放置することにした。
麗が清明の後を追い、目にした光景は意外なものだった。
どうやら、麗が動くまでもなかったらしい。
「麗?どうしたんだ」
「いや…」
清明は獣の皮を剥ぐ手を止めて麗へと顔を向けた。
まわりには二匹の獣が倒れている。
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