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「おばさーん! 団子一つ!!」
「はいよ」
小さな村を出てから三週間目の今日、ようやっと目的地が近づいてきたのだとわかりシンメイは小さな団子屋の長椅子に腰掛けて小さく微笑んだ。
視線の先に見えるのは三つ子山と呼ばれる大きな山の・・・はずである。
方位磁石と地図を見ながら全く知らない外の世界に出て、目的地である華憐にたどり着けるか少々不安もあたのだが、ゴールが近くなったことを三つ子山が示してくれている。
廣清明(こうしんめい)は晴天の澄んだ空気をおもいっきり吸い込んで、浮かれて走り出しそうな気分を抑え込んだ。
「はい。団子一つお待ち」
「ありがと! おばさん、あの山って三つ子山だよな?」
「あぁ、そうだけど・・・あの辺まで行くのかい?」
「ああ、あの山越えて華憐まで」
「なんだって?!」
団小屋の主人らしき女性は、目を見開いて清明見ると、突然清明の肩を大きな手でガッとつかんだ。
「悪いことは言わないからおやめ! あの山は獣の巣窟だよ?この辺に住んでるやつは誰も近づきやしない。華憐に行くならと遠回りだけど他の道もある」
勢いよく掴まれた肩から痛みを感じたが、それも好意だと思えば悪い気はしない。
清明は痛みで少し苦笑いになりつつも、笑顔で答える。
「知ってるさ。でも、遠回りしている時間はないんだ。それに俺はこれでも腕にはちょっと自信がある
んでね」
そう言って清明は力こぶを出す仕草をしてみせるが、ほっそりとした腕に説得力は皆無だった。
その後、団子を食べている間、説得され続けた清明であったが、意思を曲げる気はなく、ついにその女性は諦めたようだ。
「本当に行くのかい?」
「行くよ。心配してくれてありがとな!」
清明は笑顔で礼を言うと、迷うことなく山の方へと進んでいく。
進む足取りは軽く、その顔には興奮が滲み、今にも勢いよく走り出しそうだ。
「これが挑戦への第一歩! 廣友待ってな。絶対にお前の夢叶えてやるからな」
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