清麗騎士団1-序章-

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ここは華の国。 いくつかの大きな街と数え切れないほどの小さな村から成る国だ。 国と言ってはいるが、それはあくまで区分された領域に過ぎず、そこに王はない。 本当の国はもっと規模が大きいものだった。 華国、月国、樹国と言われる三つの領域を全て合わせた総称が『清麗大国』。 それがいわゆる最高権力者を持つ一つの国、何千年にも渡って女王が治めてきた国である。 この物語の始まりの舞台はそんな国の中にある華やかな街。 しかし、物語を始める前にもう少し序幕に付き合っていただこう。 団子屋を出てから丸一日歩いた清明は、三つ子山の麓まで来ていた。 すっかり日も暮れて、あたりはすぐに闇に包まれるであろう。 土地勘の皆無な山に今から入るのは危険だと考えた清明は、逸る気持ちを抑えて踏み止まった。 野宿覚悟でいたのだが、運良く近くに使われていなさそうな小さい小屋を発見。 そこで一晩休むことに決めると、持っていたりんごを一つ胃におさめてさっさと眠る体勢に入る。 小屋は相当古いらしく、少し強い風でも吹こうものなら崩れそうだったが、その日は天気もよく、上を見上げれば満天の星空。 どんなに汚い小屋だろうと、野宿を繰り返してきた清明にとっては豪華な宿と同等の価値であった。 「あと・・・一週間もあれば・・・」 夢の世界へと落ちる直前の呟きの後、すぐにすーすーと規則正しい寝息が小屋の中に満ちていく。 明日からの過酷な旅路の前の・・・嵐の前の静けさである。 翌朝、清明はパチリと目を覚ますし、すぐに身支度を整えた。 小屋のいたるところにある隙間から日が差し込んでいたので、嫌な予感と共に扉を開けたのだが、やはり御天道様はかなり高いところまで昇っている。 「ちっ、寝すぎたか!」 久しぶりの屋根の下でどうやら気が抜けたらしい。 日が昇るよりも早く起きるはずが、完全に寝坊だった。 清明は少々早歩きで山の入り口まで歩いて行き、一度立ち止まる。 入り口と言っても、そこに道はない。 獣道さえ存在ぜず、木々や草を掻き分けて行くより他に道は無さそうだ。 「人なんて来ねぇっておばさん言ってたっけな」 奥に方ほど、暗く見える山を見つめて、清明はブルリと身を震わせ、ニヤリと口角を上げる。 決して、恐怖からくる震えではなく、未知の領域に挑戦することに対しての武者震いだった。
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