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通山市で一夜を明かして、快速電車で大倉町を通過し、那智見町に舞い戻った僕は、その足で藤子がバイトしているコンビニへ向かった。
駅前のタクシー乗り場で車に乗り込み、住所を言わず店名だけ告げると、タクシーはゆっくりとロータリーを出発する。
途中那智見川の遊歩道を通り過ぎ、僕は藤子とそこで語り合った日を思い出した。
数日前の出来事なのに、今は遠く感じる。
感傷に浸っていると寡黙な運転手がブレーキをかけ、料金メーターを止めた。
無言で乗車料金を請求してくる。
僕も無言で支払いを済ませ、車外へと足を下ろした。
残暑の厳しい陽射しを照り返した駐車場のアスファルトに顔をしかめながら、少し古い造りのコンビニへ足を踏み入れると、満面の笑顔で「いらっしゃいませ」という、中谷さんに迎えられた。
彼女は僕の姿を認めると、無言で店内の奥を指差す。
首を伸ばしてそちらを確かめると、商品を補充している藤子の後ろ姿があった。
気付かれぬよう注意を払って近づき、声を掛けようとしたその時、店の事務所から出てきた小柄なお婆さんが僕を見て「いらっしゃい」と身体に似合わず大きな声をあげた。
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