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祭り会場の中心になる那智見神社は、川に封じられた竜を奉っている由緒正しい神社だそうで、この田舎町にそぐわない立派な佇まいをしている。
しかしアタシは、田舎だからこそ土地が余っていて、広い敷地が確保できたのではないかと思っている。
那智見祭には近隣の市町村から人々が大勢やって来て、毎年会場はごった返す。
神社から伸びる一本の大通りには、地元青年団や消防団の出店や地方を回っているテキ屋の屋台がズラリと並ぶ。
大通りと交差する道路にも左右に分かれてそれらは広がり、神社周辺には交通規制が敷かれ、三日間だけ車両進入禁止となる。
大通りの突き当たりには屋外特設ステージが設けられ、そこで美加子ちゃんたち吹奏楽部の演奏や、カラオケ大会、ビンゴやクイズなどが催される。
アタシたちの待ち合わせ場所は、特設ステージから少し離れたところにある、樹齢五十年位と言われている楠木の下だった。
「もう来てると思う?」
アキコの問い掛けに上の空で返事をする。
「どうだろうね」
アタシは下を向きながら歩いていて、先ほどから蹴り続けられていた憐れな小石を探していたが、雑踏に紛れて行方不明になってしまった。
まるでアタシの未来を暗示しているような無くなり方に、不安を覚えつつ前方を見上げると、青く茂った楠木が、沈みゆく夕陽と、点灯され始めた屋台のオレンジ色のライトを受けて、妖しくそびえ立っていた。
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