The Devil

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もうなにも考えたくない、父も母も姉も屋敷に仕えていた人全てが居なくなった。 もう鬼灯の周りにいない。 孤独。 それが今、鬼灯を支配する。 だが、この場所で待たなければならない。 だれかが、誰かが生きていることを願って。 そう切実に願いながら、何分たったのだろうか、もう時間の感覚すら分からなくなる。 そんなになるまで精神を疲弊させられたころ、遠くから鬼灯の名を呼ぶ声がかすかに聞こえた。 何時もなら聞くことのない切羽詰まった声で呼ぶ声には気個覚えはある。 繊月である。 鬼灯は立ち上がり声の聞こえたほうへと走り出す。 走り出した先には繊月が人を一人担いでよたよたと揺れながら歩いていた。 それを見たとき、鬼灯はさらに足を速めて繊月のところまで駆け寄った。 「やはは~、遅れちゃったのさ~」 笑顔を作るが、繊月の姿を見ればそれが無理やりだということは嫌でもわかる。 綺麗な白髪は火事の煤で汚れ、お気に入りの服は所々破れ、少し血がにじんでいるのだ。 「ん、生きてる、ならいい」 来てくれたことに対しての嬉しさによる涙を堪えるようにして言う。 それを感付かれないよう、ごまかしも兼ねて、繊月に担がれている人物の顔を見る。 「姉さま!?」 繊月が担いできた人物は鬼灯家の長女である、鬼灯・凛、その人である。 腕に裂傷のように走る火傷が痛々しく、息も荒いなんてものじゃない。 「一様、私が治療を試みたけど、なにかが邪魔して上手くいかなかったのさ~、とりあえずここから離れて病院に連れていくのさ~」 繊月のチカラをもってしても治せないのを病院に連れていくのもおかしな話だが、そんなことを考えている余裕もなく、鬼灯と繊月は二人で担いで町まで歩く。 周囲を警戒しながら、夜の街を歩く。  
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