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数十分程度歩いたころ、町の大きな総合病院に到着した。
緊急外来側から凛を連れて入る。
当然、受付は大慌て、すべての手続きを繊月に任せ鬼灯は病院に備え作れられている椅子に座り、一息つく。
一息の間には、今までのことを考える。
なぜ、屋敷に火の手が上がったのか。
ただのボヤ騒ぎなら、確実に消防車などが来る、はず。
なのに、救急車はおろか、野次馬の姿まで一切見なかった。
人為的な力が働いていることは冷静に考えてみればすぐにわかる。
父も、母も。
今はもう、姉である凛と繊月、その二人しか今起こった出来事を知らない。
何があったかは誰にもわからない、一番事件に近かったものは全て居ないのだから。
「うっ・・・・・・」
小学生ながら、いまだ幼い鬼灯、冷静に全てのことを考えてみれば、一瞬にしてほぼすべての肉親を失ったのだ。
これまで、病院について落ち着くまで、一滴も涙を流していない酸漿の頬を濡らす。
静かに、椅子に座ったまま蹲るでもなく、ただただ静かに涙を地面に落とす。
泣き叫ぶのをこらえるように口の端をきつく結ぶ姿は、とても儚い。
ぽたぽたと伝え落ちる涙の数が幾つも落ちた時、すべての手続きを終えた繊月が戻ってきた。
二人とも、疲れ切った表情をしている。
片方は失った苦しみに駆られて。
もう片方は、やりきれぬ思いで。
病院の一角だけ、音が消えるような錯覚に落ちる。
生と死が隣り合わせに存在する病院という空間。
その中で悲しみに暮れる者は幾多もいる。
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