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姉さまと一緒にいなくちゃ。
もう、泣いてなんか、いられない。
心を奮い立たせて立ち上がる。
が、立てない。
涙は流れ、落ちる。
「あれ・・・・・・?」
自分が立てないことを不審に思い、止まらない涙に対しても同様に思う。
「立ってよ、立ってよ、私は・・・、こんなところで止まれないのに・・・・・・っ」
ぽたぽたと繊月がいたときよりも量が多い涙がリノリウムの病院の床を濡らしていく。
止めることのできない涙に困惑する鬼灯。
涙を流している自分の感情を処理しきれていない、否、自身の今がわかっていないのだ。
自身の感情が掛ける枷を無理やり振り切り立ち上がる、顔は涙で濡らし、ふらふらとした足取りで。
病院の中をふらふらと彷徨い始める酸漿、その場にその行動を止める者はいない。
緊急外来から離れ、正面玄関口へ、意識があやふやのままの動作。
夢遊病者のような足取りで動く、正面玄関から各科の診療室前を通る
「そこの人、すこし止まりなさいな」
その途中、精神科のところで呼び止められる。
声のする方へ酸漿の顔が向く。
酸漿のすぐ後ろ、肩に手を掛ける動きのままの白衣を着た金髪の男が呼びとめた。
「・・・・・・何か用ですか?」
「いやな、君があまりにも不安定だからさ、少しね」
飄々とした態度で鬼灯に接する人物。
適当に、ここの病院の医者の一人だと鬼灯は考える。
かなり高い身長から発せられる軽い口調、それでも小学生の鬼灯からしてみればなかなかの脅威であり、警戒心は生まれる。
「そう警戒するなや、ほれ、ちょっと来てみ」
しゃがんで手まねきまでして酸漿を呼ぶ。
たいした距離じゃないにしても手が完全に届く距離に至る。
医者にしてはごつごつとした手が酸漿の頭の上に乗る。
「これからちーっと俺が君の精神を弄るけど、いつか解けるさ、壊れるより断然マシさ」
その一言から先、ひと言たりとも鬼灯は覚えていない。
おぼろげに、ただおぼろげに最後に見た金髪の男のやりきったような笑顔が残っているだけだった。
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