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深夜。
草木も眠る丑三つ時。
暗く、街灯が出すぼんやりとした明かりが何本も灯っている現代。
現代からどこか浮き出るようにして遺された古き良き日本の香を残す一軒の日本家屋。
その一軒が持つ広大な敷地の一角。
土倉と呼ばれる倉庫の中。
外にジワリと漏れだすようにすすり泣く幼げな声が聞こえる。
土壁でできた頑丈な土倉の鉄扉には一本のつっかえ棒で扉が開かないように封がされているのだ。
土倉の中には三日月の発するおぼろげな光が小さな窓を通して優しく降り注いでいる。
しかし、土倉の中で泣いている者の涙を止めることはできない。
泣いている人は優雅な模様の施された白い和服を着こなすあどけない少女。
黒曜石のような両目からとめどもなくこぼれる涙は止めようと努力しようと、目を手でこすろうともとどまることを知れない。
少女の静かな泣き声と、周囲にあるたくさんの骨董品、それに三日月がその少女をモノ言わず見ている。
何に対して悲しんでいるのか、
それを知る人物は土倉の中にいるのは泣いている少女のみ。
誰もいない土倉という空間で涙をこぼすこと、数十分。
突然、少女の涙が止まった。
ふと、何かに気がついたように顔を上げ、空を見る、
雲ひとつない小さく区切られた空に浮かぶ美しい乳白色をした三日月が少女の目に入る。
若干釣り目をしている静かな瞳が月を見る。
何かに魅せられたように、ただじっと
その少女の頬を伝うように瞳の端に残った涙のしずくが土倉の床に落ちていく。
一瞬床を濡らし乾く。
そのはずだった、しずくは落ちた場所を中心に急速に波紋を広げる。
それが、段々と一つの絵のように円状に広がり描いていく。
突然の出来事に反応できない涙を流していた少女。
驚愕の表情が顔に出る、しかしそんな表情をしても波紋は止まらない。
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