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先程まで唸っていた人物に対してそう問いかける蓮であった。
「ん~、私はえーっと、あれさ~、うん」
とても言いにくそうにはぐらかそうとする繊月、まだ幼い酸漿にもはっきりとわかるほどの稚拙なごまかし方をしようとする。
「言いにくいならいいよ」
見かねた酸漿が繊月に向かって助け船を出す。
それに対して苦笑しながら首を縦に振る繊月。
「まぁ、これから先、ずーっと一緒なのさ~」
ちなみに、と一息入れ、相手に聞こえているかを確認する。
「私のことはぜーんぶ記憶をすり替えてあるからぜんぜん平気なのさ~」
この適当な言い方。
それでも自分の技術を誇っているのか、何の疑問も懸念もしない繊月。
今この瞬間、繊月の存在している意味などがわかっていない酸漿。
この先ずっと、生活していくことになる。
それはとても長い。
そんなことは今この時点で誰も知ることもない。
「よくわからないけど、一緒にいればいいのね?」
まだ疑問が消化しきっていない酸漿は少し考える。
しかし、そんなことは別にどうでもよかったのだ、酸漿にとっては。
今このつまらない日常の変化を、囲いの中にいれこまれて飼われるだけの存在からの脱却を切に願っていたのだから。
家のため、血を濃く、ある日突然降りかかった災厄がもたらした能力を強くするため。
そんな利益を追求されたこの生活にこの若さで嫌になった。
だから、酸漿は迷わない。
「いいわ、私、鬼灯・蓮はあなたと一緒にいるわ」
その言葉を聞くと繊月は顔を綻ばせる。
神秘的な風体を持ちながら、年相応の華やかな笑顔を見せる。
「ん、よろしくね?」
そんな簡単な挨拶のような一言、
しぶとく残っていた紅色の陣が最後の一つと言わんばかりに淡く瞬き、二人を包む。
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