2人が本棚に入れています
本棚に追加
○
何時も通りの朝を迎えるはずだった。
繊月と出会ったころよりも、少し成長した鬼灯・蓮。
服装は昔も今も変わらず、和服をこのんで着ているが、今はその流麗な和服の端が千切れているのだ。
素足で走ってきたのか、足は土で汚れ、汗ばんでいる、だが鬼灯にそれを気にしている暇はない。
なぜなら、小高い丘の上で呆然と見下ろすと、そこは火の海と化しているのだ。
轟々と激しく音を立てて燃える大きな屋敷。
繊月と出会った土倉は内部から炎上。
人も、建物も残さないほど強く燃え上がる炎。
周囲を見回すと、何時如何なる時も鬼灯にまとわりついている繊月の姿がないことに酸漿は気づく。
辺りを見回すがあの特徴的な白髪が見えない。
荒い息遣いを整えて叫ぶ。
眼下で激しく音に負けないほど強く。
しかし、繊月は現れない。
今まで来た道、叩き起された頃を思い出そうとする。
しかし、そのすべてに靄がかかる。
思い出そうとしても、なぜか一定の、ここまで走ってくる道のりしか思い出せない。
逃げる場所はすでに告げた、はず。
確証が持てないまま酸漿は丘に崩れるように座る。
最初のコメントを投稿しよう!