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── 狂い咲きのさくら。
もう狂い咲きとは呼べないかもしれないその木は、
雨の日も、
風の日も、
雪の降りしきる日ですらも、
一年中絶やすことなく一房だけ花を咲かす。
うららかな光が降り注ぐその木の元に、声がこだました。
どこからともなく聞こえる男たちの無邪気に笑い合う声が。
少年が三人、走りながら、木の方へやってくる。
先頭を走る少年が幹に手を触れた時、笑い声の主たちは身を潜めてしまっていた。
「俺、いっちばーん!」
「ああっ、また負けたっ!」
遅れてきた少年が悔しそうに口許を歪ませ、目を潤ませながら見上げる。
花びらがひとひら、風に舞い、ふわりと少年の鼻に触れた。
まるであやすかのように。
少年たちが笑った。
木の梢も音もなく揺れる。
キラキラと隙間から光が溢れた。
じゃれ合い、笑い合う声は空へ。
今日も空は晴れ渡り、柔らかな色調を美しく映していた。
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