58人が本棚に入れています
本棚に追加
見渡せば見える辺り一面に広がる色とりどりの花畑。
紺のブレザーに赤いネクタイ、白と黒のチェックのズボンの少年は花畑の奥にある木の棒が十字に組まれて盛り上がった土に刺さっただけのなんとも空しい墓の前までゆっくりと踏みしめるように歩いていく。
「ほとんどの生徒はみんなお前のこと忘れちまってるみたいだ。でもな、ちゃんとお前のこと覚えているやつもいるからな。だから安心しろよな。」
少年は涙を堪えるためにぽつりぽつりとゆっくりした口調で喋り、両手に抱えた花束をその空しい墓に置いた。その少年の他の数人の少年少女の中には泣き出す者もいた。
「それじゃ、そろそろ船が来るから。次ここに来るときには長年夢見てきた教師になってもどってくるから待ってろよ。」
抑え切れず涙をながしたその少年は優しく墓に触れると墓に背を向け離れていく。そしてほかの少年少女も涙を流しながら歩いて行った。
この物語の始まりはこの風景から三年ほど前にさかのぼる。
最初のコメントを投稿しよう!