序章

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時は2XXX年。 そう遠くない未来。 あるところに、男と、女がいました。 商才に長けた男は、さまざまな事業を成功させ、一代で莫大な富を築き上げました。 男は、仕事で立ち寄った、音楽の都ウィーンのオペラ座で、それは美しい女と出会いました。 二人は恋に落ち、結ばれました。 やがて、二人の間に子供ができました。 一人目は、男の子。 父親に似た、深いブラウンの瞳を持った男の子でした。 彼は幼い頃から非常に優秀で、スキップして大学院を出る頃には、提出した遺伝子研究の論文が、認められるほどでした。 父親は優秀な我が子が自慢で、自らの経営するグループ会社の中の製薬会社に、研究者として彼を迎え入れました。 彼は父親の援助のもと、思う存分研究に打ち込める環境を手に入れました。 二人目は、女の子。 母親譲りの、ヘーゼルがかったグリーンの瞳を持つ彼女は、比類のない美しさを持って、この世に生を受けました。 生れつき体が弱く、それが完璧な容姿に儚さという隙を与え、言いえぬ魅力を湛えていました。 兄はそんな妹を人一倍気にかけ、大事に慈しみ、忙しい両親に代わりめいいっぱいの愛を注ぎました。 そんな幸せな家庭でしたが、ある時、母親が体調を崩してから、その幸せに陰りが見えはじめます。 もともと仕事人間で、あまり家庭を省みなかった父親ですが、その態度は、母親が病にふしても変わりませんでした。 次第に夫婦仲は覚めゆき、母親は「療養のため」という大義名分のもと、別宅に生活の拠点を移しました。 兄は逃げるように、より研究に打ち込むようになりました。 そんな不穏な空気が漂う家庭に、年の離れた妹を置いておくのも忍びなく、妹を緑の多い美しい町に住む親戚の家にあずけて。 幸せだった家族は、こうしてバラバラになってしまったのでした。
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