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それにこの人……。
彼を見ながら……いえ、彼から見える人を見ながらぼうっと、半年ほど前のことを思い出す。
――いけない。早く起こしてあげないと。
はっと我に返り、彼を起こそうとその肩に手をかける。……なぜかしら? 少し濡れている。今日雨は一度も降ってなかったのに。
言いようのない不安に駆られると、鼻に嗅ぎ慣れない臭いを感じた。
血の臭い……!?
私自身から血の気を引くのを感じる。黒色系で解りづらかったその服は、よく見ると幾つもの箇所に赤色が映っていた。
こんな状況を体験したことなどなく、最初は困惑したけれど、数秒の時間が経ち、彼のか細いながら穏やかな呼吸音を聞くと、不思議なことに落ち着きを取り戻せた。
真夜中に診療所など開いている訳がないと思った私は、迷うことなく彼を運ぶことにした。力にはさほど自信がなかったものの、彼の身体が細身であることが幸いし、半ば足を引きずる形でならなんとか動かすことができた。
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