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10年前。
某日。某所。某ホールにて、とあるコンクールの結果発表が行われていた。結果発表。
「第42回○○コンクール、最優秀賞に輝いたのは××××さんです--」
拍手と共に会場全体に響き渡る審査員のその声に、私は全身から力が抜けるのが分かった。手から、腕から、肩から全部。だらんと、重力に従ってだらしなくぶら下がる。
脱力。
呆然。
そして、恐怖。
審査員が講評を語るなか、エキサイトする参加者達の中で、ただ私だけが、酷く青ざめた顔を浮かべていた。開いた口が、塞がらない。じっとりと嫌な汗が湧いて出る。焦る。焦燥感に駆られる。鼓動が速い。世界に、置いていかれる。
私は、二位だった。
その結果だけ聞けば、それは凄い事だと誉めてくれる人がいるかも知れない。恥じるような事では、ないのかも知れない。
しかし、私は一位には、なれなかったのだ。一位でなければ二位も三位も変わらない。負けた事に変わりはない。絶対に負けてはいけなかったのに、優勝しなければ行けなかったのに--…
また、負けてしまった。
こうもあっさりと敗れてしまった。
涙が、頬を伝うのが分かった。
「お嬢様!おめでとう御座います!こんなに大きなコンクールで二位だなんて凄いじゃないですか!旦那様もきっと誉めて下さる……」
「……わけ、ないだろ……」
「え?」
「そんなわけないだろ!二位だぞ!一位じゃないんだ!大きなコンクール?だからどうした、そんなの関係ない!
私は一位にならなくちゃいけなかったのに……。またお父様に、叱られる……」
「お嬢様…」
私の落胆ぶりを見て、気を使って言ってくれた一言だった事くらい、私にも良く分かっていた。分かっていたのに、私の事を心配してくれた彼に対し、怒鳴り散らす事しか、私には出来なかった。
父の期待を悉く裏切り続けてしまう自分の無力さが、ただただ恨めしくて、その心の内を話せるような友達も、当時の私にはいなくて。
そんな私を見かねて母が用意してくれた、歳の近い付き人に、私は当たり散らしていたのだ。
申し訳ないと思いながらも、止める事は出来なかった。彼には本当に、自分の醜い所ばかりを見せてしまっていたと思う。
随分と歪な形ではあったが、彼は、私の心の寄りどころだった。
父には見限れ、母にもろくに会えない。そんな環境で、彼だけには、本当の自分を見せる事が出来た。たった1人の家族だった。
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