4人が本棚に入れています
本棚に追加
私の家は所謂『お金持ち』だった。
某大型貿易会社の取締役を務める父に、世界中に支店を持つ某有名ファッションショップのデザイナーである母。国会議事堂より大きい馬鹿みたいな広さの豪邸に、果ての見えない広い庭。
数百人はいるであろう執事やメイド、etc.
そんな環境に生まれた私は、幼少の頃より膨大な金をかけて英才教育を半強制的に受けさせられた。父も、母も、私には期待してくれていたのだろう。ひたすら勉学に励む毎日だった。辛い日々だった。
多額の費用をかけて育てた私。なのに、大した結果を残せない私。
いつしか父は私に期待をしないようになった。コンクールに応援に来てくれる事もなくなった。仕事が忙しいとの事だが、それだけが理由ではないのを、幼い私は痛い程に理解していた。
私は、見限られたのだと。
精神のすり切れるような日々の中で、彼は、現れた。
ハコビ ミコト
黒い髪の、箱琵 命という大仰な名前をした、利発そうな面持ちの少年だった。
今思えば何故まだ10にも満たないような少年が付き人などをしていたのか甚だ不思議だが、きっと忙しい母が私の為に訳ありの少年を拾って連れて来てくれたのであろうと勝手に思っている。恐らくきっとそうだろう。
世の中、金さえあれば大体の事はまかり通るのだ。私はそれを、短い人生の内に痛感していた。本当に汚い世界だ。
まあそんな経緯で私のもとに来てくれた彼ではあったのだが、幼い私は彼に、本当に酷い事をしていた。
彼には散々暴言を吐いた。彼は何もしていない。なのに私は彼を怒鳴り散らし、喚き散らし、当たり散らして、酷い時には暴力を振るったりもした。やりたい放題だった。…最低だったと思う。
それでも彼は、私のもとから去ろうとはしなかった。
どんなに酷い事を言っても、どんなに暴力を振るっても、彼は私の側に居続けてくれた。私の事を理解しようとしてくれていた。
余程の事情があったのかも知れない。もしかすると、彼は幼いながらも多額の借金を抱えていて仕方なく、選択の余地もなく、私の側にいただけなのかも知れない。
それでも、私には、それが、いつも側にいてくれるという事が、何にも代え難く嬉しかった。
いつしか私は、彼に想いを寄せるようになっていた。
傷ついた心に、彼の優しさは酷く心地よかったのだ。私は彼に、依存し過ぎていた。
最初のコメントを投稿しよう!