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その後、王子はカップを持って、椅子に座ったままで眠るという器用な芸当と、魔法士としての実力の片鱗を見せたわけだが、それについては後で語ろうか。
上から被せるように王子のマントが視界を塞ぐ。
理由は俺の面が城の兵士に割れている可能性が高いからだ。
「汚れるけど、いいのか?」
「汚れたら洗えばいいんですよ」
なんのことはないというが、普通の王子がそんなこと考えるだろうか。
不信に見上げる俺を優しい眼差しが見下ろす。
背筋に何故か冷たいものが流れる。
嫌な予感がする。
「やっぱり、他の方法にしねぇ?」
「だってリンカさんの方法って、あの城壁を越えるんでしょ?
そっちの方が目立つし、余計な体力じゃないですか」
だから、なんで笑ってるんだ。
この王子は。
後ずさりかけて、石につまずいた身体を伸びてきた腕が引き寄せて支える。
見た目以上の力強さに驚き、反応が遅れて、俺は王子の腕の中にいた。
「気をつけないと危ないですよ。
こんな森の中で怪我したら……」
近くで聞こえる声に、恐怖する。
王子にじゃない、自分にだ。
「怪我なんかするかよ。
こっちは本職。
日がな一日遊んでる貴族様とは違って、丈夫なんだ」
なんとか振り払って、森の中を先に立って進む。
木陰からはかすかに城壁の石色が見えるけれど、目指しているのは裏口だからまだゆっくりと先に進む。
ザカザカ歩いても気がつく見張り自体がいないんで楽だが、大丈夫なのか、この城は。
「貴族もそれなりに大変だと思いますよ~」
「王族も?」
「王族も」
すんなりと帰ってくる返事が苛立たしい。
早く見えねぇかなぁ、裏口。
「俺よりも?」
「それはわかりませんよ~。
僕はリンカさんじゃありませんからね~」
マントにつんのめって、転びそうになるのを後ろから何度も支えられる。
嫌みなクスクス笑いが耳につく。
「僕のマントはリンカさんには大きすぎですね~」
身長差を考えるとそれも仕方ないとは思えるが、でも理不尽にむかついてくる。
「あ、キズ……」
「さわんな」
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