1# よくある導入劇

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 その後、王子はカップを持って、椅子に座ったままで眠るという器用な芸当と、魔法士としての実力の片鱗を見せたわけだが、それについては後で語ろうか。  上から被せるように王子のマントが視界を塞ぐ。  理由は俺の面が城の兵士に割れている可能性が高いからだ。 「汚れるけど、いいのか?」 「汚れたら洗えばいいんですよ」  なんのことはないというが、普通の王子がそんなこと考えるだろうか。  不信に見上げる俺を優しい眼差しが見下ろす。  背筋に何故か冷たいものが流れる。  嫌な予感がする。 「やっぱり、他の方法にしねぇ?」 「だってリンカさんの方法って、あの城壁を越えるんでしょ?  そっちの方が目立つし、余計な体力じゃないですか」  だから、なんで笑ってるんだ。  この王子は。  後ずさりかけて、石につまずいた身体を伸びてきた腕が引き寄せて支える。  見た目以上の力強さに驚き、反応が遅れて、俺は王子の腕の中にいた。 「気をつけないと危ないですよ。  こんな森の中で怪我したら……」  近くで聞こえる声に、恐怖する。  王子にじゃない、自分にだ。 「怪我なんかするかよ。  こっちは本職。  日がな一日遊んでる貴族様とは違って、丈夫なんだ」  なんとか振り払って、森の中を先に立って進む。  木陰からはかすかに城壁の石色が見えるけれど、目指しているのは裏口だからまだゆっくりと先に進む。  ザカザカ歩いても気がつく見張り自体がいないんで楽だが、大丈夫なのか、この城は。 「貴族もそれなりに大変だと思いますよ~」 「王族も?」 「王族も」  すんなりと帰ってくる返事が苛立たしい。  早く見えねぇかなぁ、裏口。 「俺よりも?」 「それはわかりませんよ~。  僕はリンカさんじゃありませんからね~」  マントにつんのめって、転びそうになるのを後ろから何度も支えられる。  嫌みなクスクス笑いが耳につく。 「僕のマントはリンカさんには大きすぎですね~」  身長差を考えるとそれも仕方ないとは思えるが、でも理不尽にむかついてくる。 「あ、キズ……」 「さわんな」
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