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しかし、あまりの弱さに中途半端に力が余ってしょうがない。
どこかに発散させる場はないかと食堂で食べながら考えていた。
そこに、あらわれたのがこの王子だった。
「あの、相席いいですか?」
夕食には早過ぎる時間にがらんとした食堂で、そう切りだしてきた。
紳士的な態度というよりも、警戒心皆無な笑顔で胡散臭い男だ。
金持ちの青年貴族が物見遊山でもしているかのような格好で、金髪碧眼の美丈夫。
その上、どこぞの王子の彫刻張りの容姿ときては、この小さな宿場町ではかなりの人目を引く。
町に入った時にはもう噂が駆けぬけ、当然俺も聞いてはいた。
まさか、本人が話しかけてくるとは思わなかったけれど。
「いいぜ。
あんたがメシ奢ってくれんならな?」
挑戦的な瞳で意識して睨みつけ、どうせなら他の空いてるテーブルを使えと暗に示してやる。
普通なら、俺みたいな子供にそんなことを言われて、大人しく相席するヤツなんかいない。
俺はどう見ても十三歳ぐらいだし、実際に十三歳だ。
王子もどう若く見積もっても五つは上だろう。
プライドってヤツが邪魔をして、喧嘩にはならないはずだし。
このもって生まれた計算高さのおかげで生き延びているから、狂いはない。
そういった自信を王子は見事に覆した。
「交渉成立、ですね」
にっこりと微笑んで俺の前に座り、あっけに取られている間にウェイトレスを呼びつけて注文しだす。
すでに顔馴染のウェイトレスがかすかに頬を染める姿に驚いて、掬ったスープが逃げ出していることも気がつかずに俺はスプーンを口に運ぶ。
「貴方は、何にしますか?」
問い掛けながら振り向いた王子は余裕の笑みをたたえ、俺はどんな顔をしていいやらわからなくて、スプーンを口に咥えたまま男を観察した。
どこかで見た顔かと首をひねる。
「メニュー上から下まで全部」
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