1# よくある導入劇

5/15
前へ
/183ページ
次へ
 しかし、あまりの弱さに中途半端に力が余ってしょうがない。  どこかに発散させる場はないかと食堂で食べながら考えていた。  そこに、あらわれたのがこの王子だった。 「あの、相席いいですか?」  夕食には早過ぎる時間にがらんとした食堂で、そう切りだしてきた。  紳士的な態度というよりも、警戒心皆無な笑顔で胡散臭い男だ。  金持ちの青年貴族が物見遊山でもしているかのような格好で、金髪碧眼の美丈夫。  その上、どこぞの王子の彫刻張りの容姿ときては、この小さな宿場町ではかなりの人目を引く。  町に入った時にはもう噂が駆けぬけ、当然俺も聞いてはいた。  まさか、本人が話しかけてくるとは思わなかったけれど。 「いいぜ。  あんたがメシ奢ってくれんならな?」  挑戦的な瞳で意識して睨みつけ、どうせなら他の空いてるテーブルを使えと暗に示してやる。  普通なら、俺みたいな子供にそんなことを言われて、大人しく相席するヤツなんかいない。  俺はどう見ても十三歳ぐらいだし、実際に十三歳だ。  王子もどう若く見積もっても五つは上だろう。  プライドってヤツが邪魔をして、喧嘩にはならないはずだし。  このもって生まれた計算高さのおかげで生き延びているから、狂いはない。  そういった自信を王子は見事に覆した。 「交渉成立、ですね」  にっこりと微笑んで俺の前に座り、あっけに取られている間にウェイトレスを呼びつけて注文しだす。  すでに顔馴染のウェイトレスがかすかに頬を染める姿に驚いて、掬ったスープが逃げ出していることも気がつかずに俺はスプーンを口に運ぶ。 「貴方は、何にしますか?」  問い掛けながら振り向いた王子は余裕の笑みをたたえ、俺はどんな顔をしていいやらわからなくて、スプーンを口に咥えたまま男を観察した。  どこかで見た顔かと首をひねる。 「メニュー上から下まで全部」
/183ページ

最初のコメントを投稿しよう!

24人が本棚に入れています
本棚に追加