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「え!?
リンカ、そんなに食ったら腹壊すわよっ」
ウェイトレスが慌てていう様子に、俺は冗談だと笑って応える。
目の前の男は俺がいっていることを理解しているのかいないのか、それともそれだけ財布に余裕があるのか、まったく表情を変えずに笑んだままだ。
「ま、いつもの頼むわ」
「あいよ~。
じゃ、おにーさん、またね」
へらへらとした男に頬を赤らめて小さく手を振る彼女に、相手も変わらない笑顔のまま手を振りかえす。
(なにをしているんだ、なにを)
彼女が厨房に走りこんでいる姿を視線で追いながら、俺はスープをまたひと掬い。
さっきのウェイトレスの様子からして、たしかに格好良いのだろう。
俺にはさっぱりわからないが。
「リンカさんというんですか、あなた」
この笑顔がなんだかどうしようもなく胡散臭い。
「そうだけど、何?」
「いいええ」
この変わらない笑顔がなにより嘘臭い。
頭のどこかで信用するなと警告されている気がする。
音をたてて、スープを飲み干したところで料理が運ばれてくる。
気になることは多いけれど、せっかくのおごりだ。
美味しく食べなきゃ罰が当たる。
「この町に他にリンカって名前の人は?」
「俺だけだよ」
手と口を忙しく動かす俺と大差ないスピードで、目の前の料理を片付ける男。
その仕草の端々に気品のような物を感じて、俺はまた心の中で毒を吐き出す。
いやみだったらねぇや。
たった一度のその質問の後、料理がほとんど片付くまで、男は無言で食べ続けた。
無言でかつ優雅な仕草に、周囲からため息が聞こえてくる。
そんなにイイ男かねぇ。
こんな弱そうなのが。
「あんた、俺に用事なんか?」
「……たぶん」
なんだ、その苦笑は。
「貴方の腕を見込んで、頼みがあります」
まだ食事中の俺の前で、食後のホットドリンクを優雅に傾ける。
やっぱり、嫌なヤツだ。
「俺の腕?
あんた、見たことあったか?」
「直接ではないですけどね」
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