1# よくある導入劇

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「え!?  リンカ、そんなに食ったら腹壊すわよっ」  ウェイトレスが慌てていう様子に、俺は冗談だと笑って応える。  目の前の男は俺がいっていることを理解しているのかいないのか、それともそれだけ財布に余裕があるのか、まったく表情を変えずに笑んだままだ。 「ま、いつもの頼むわ」 「あいよ~。  じゃ、おにーさん、またね」  へらへらとした男に頬を赤らめて小さく手を振る彼女に、相手も変わらない笑顔のまま手を振りかえす。 (なにをしているんだ、なにを)  彼女が厨房に走りこんでいる姿を視線で追いながら、俺はスープをまたひと掬い。  さっきのウェイトレスの様子からして、たしかに格好良いのだろう。  俺にはさっぱりわからないが。 「リンカさんというんですか、あなた」  この笑顔がなんだかどうしようもなく胡散臭い。 「そうだけど、何?」 「いいええ」  この変わらない笑顔がなにより嘘臭い。  頭のどこかで信用するなと警告されている気がする。  音をたてて、スープを飲み干したところで料理が運ばれてくる。  気になることは多いけれど、せっかくのおごりだ。  美味しく食べなきゃ罰が当たる。 「この町に他にリンカって名前の人は?」 「俺だけだよ」  手と口を忙しく動かす俺と大差ないスピードで、目の前の料理を片付ける男。  その仕草の端々に気品のような物を感じて、俺はまた心の中で毒を吐き出す。  いやみだったらねぇや。  たった一度のその質問の後、料理がほとんど片付くまで、男は無言で食べ続けた。  無言でかつ優雅な仕草に、周囲からため息が聞こえてくる。  そんなにイイ男かねぇ。  こんな弱そうなのが。 「あんた、俺に用事なんか?」 「……たぶん」  なんだ、その苦笑は。 「貴方の腕を見込んで、頼みがあります」  まだ食事中の俺の前で、食後のホットドリンクを優雅に傾ける。  やっぱり、嫌なヤツだ。 「俺の腕?  あんた、見たことあったか?」 「直接ではないですけどね」
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