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この男がここに来たのは今日。
で、一番最近俺が喧嘩した相手といえば、――あの剣術使いの関係者か。
「依頼を受けるかは、先に話を聞いてから決めてください」
また、ふわりと微笑む。
ほらな、やっぱり信用ならない。
さっきから同じ愛想笑いばかりで、本心が見えない。
初対面なのだから仕方がないと思っても、拭いきれない予感を振り払い、口元だけ笑んで返す。
「いやだね」
ほんのわずかに男の表情が固まるのを横目で見ながら、暖かなスープの中の肉を掬い取る。
「名前も名乗らんヤツの話なんか、聞く気しねぇよ」
しかし、依頼者は大切に、だ。
どうみても大金をもってそうな餌を他に回してやる気はない。
男は困ったような顔であたりを見まわす。
つられて食堂を見回すと、いつのまにやら誰もいないが、そこら中から気配はしている。
殺気はないのでその点の問題は不用のようだが、好奇の視線を感じる。
噂の渦中の人物がいるせいとはいえ、面白くはない。
「これは、失礼しました」
小さく何か呟くのがわかったけれど、男はそれに対して何の説明もいれずに続けた。
「僕はディルファウスト・クラスターといいます。
ディルと呼んでくださいね」
人の気配はあるが、騒ぐ声は聞こえない。
一般に魔法というやつである。
正式には術式制御者と云い、簡易・中等・高等の三段階に分けられる。
これは生まれた時から持っている魔力というやつの容量がないとなれない特殊な技能だ。
簡易術式制御者の俗名は見習い魔法士で、けっこうどこにでもいたりする。
中等術式制御者は魔法士と呼ばれ、大体の術式をこなすことは出来るが、魔力を引き出すために術式がものすごく長くなりやすい。
そして、高等術式制御者。
これは魔法使いと呼ばれ、大陸に十人いるかいないかといわれるぐらい希少だ。
詠唱を簡略化しても魔法士と同等の威力が出るというし、新種の術式を開発するのも彼らだ。
もしかすると、この男、魔法士なのかもしれないと、俺は考えかける。
「俺はリンカ。
ただのリンカだ」
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