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堅司は彼女が居たと聞き、胸が苦しくなった。
「新しい彼女は?」
「女は当分いいや」
苦笑いを浮かべながら悠斗が言った。
「野末は?」
「俺は皆とつるんでいる方が楽しいから」
「好きな娘とか居ないのかよ」
堅司にはキツイ言葉だった。
何故なら今まで好きになったのは男ばかりで、女を好きになった事がなかった。
その事で苦しんだ時もある。
そんな時を乗り越え、今の堅司が居るのだ。
「……別に居ないよ」
「何だよ今の間は。
怪しい……居るな?」
堅司はジッと悠斗を見た。
(いっそう言ってしまおうか……)
しかし口を開いて出た言葉は「居ない」の一言。
「いや、居るな。言っちゃえよ」
言えたらどんなに楽か。
でも、言えない。
言えば終わってしまう。
だから言えない。
だから言わない。
「言っちゃえよって、居ないのに言えないだろ」
「あの間は確実に居るね」
いつも鈍いくせに、こう言う時だけ勘が働く。
信じてカムアウトして、何人の友達を失ったか。
堅司は悠斗だけは失いたくなかった。
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