2.出来事

5/17
前へ
/120ページ
次へ
堅司は彼女が居たと聞き、胸が苦しくなった。 「新しい彼女は?」 「女は当分いいや」 苦笑いを浮かべながら悠斗が言った。 「野末は?」 「俺は皆とつるんでいる方が楽しいから」 「好きな娘とか居ないのかよ」 堅司にはキツイ言葉だった。 何故なら今まで好きになったのは男ばかりで、女を好きになった事がなかった。 その事で苦しんだ時もある。 そんな時を乗り越え、今の堅司が居るのだ。 「……別に居ないよ」 「何だよ今の間は。 怪しい……居るな?」 堅司はジッと悠斗を見た。 (いっそう言ってしまおうか……) しかし口を開いて出た言葉は「居ない」の一言。 「いや、居るな。言っちゃえよ」 言えたらどんなに楽か。 でも、言えない。 言えば終わってしまう。 だから言えない。 だから言わない。 「言っちゃえよって、居ないのに言えないだろ」 「あの間は確実に居るね」 いつも鈍いくせに、こう言う時だけ勘が働く。 信じてカムアウトして、何人の友達を失ったか。 堅司は悠斗だけは失いたくなかった。
/120ページ

最初のコメントを投稿しよう!

283人が本棚に入れています
本棚に追加