序章  賊の男・一国の王女 

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――ミーア暦二千年十月 北西・北東・南西・南東と四つの大陸、その大陸に囲まれた海一つと、その外側のに二つの海があるウォルツァハト。 そこの南南東の大陸、ハルデルニバル大陸の最南端にある国[ブリドラス]の最北にある【フューリア平原】の一角にキャンプを置いた〔ダグラス〕という一賊の内三人の下っ端が、野に転がっていた四十代の女が抱いていた、生きた一人の赤ん坊、男の子を見つけた。 「…ん?何だ、このガキは生きてるみたいだな…息をしている。女は…明らかに死んでるな」 「どうする?そのまま捨て置くか?」 賊の三人の内二人は捨て置く意志を示した…が。 「…いや待て。前に賊長が言って無かったか?出来るものならば、また新たに息子を持ちたいとか何とか…」 もう一人の賊の男は、その言葉をあげた上で、男の子を持ち上げる。 気持ち良さそうに眠っている男の子。 女の死体は随分前のものに見えるのに、男の子の体はまだ暖かい。 親の体から離れ、他人の手に渡っても眠り続けているというのは、珍しい、よほど眠りが深い赤ん坊なのだろう。 「…確かに。賊長は元[テラファリカ]という国で、突然の多勢の奇襲にあって敗れ、一国が業火に包まれ、そのせいで妻と子を亡くしたとか…」 「う…そいつぁ辛そうだ。持った事がない俺には実感わかねぇが」 「お、おい。その話はあまり口にしないようにとも言われなかったか?辛いからこそあまり聞きたくないから。そんなこと賊長に聞かれたら…」 「呼んだか?」 「「「うおぉう!?」」」 下っ端三人、ビビりまくり。 この『呼んだか?』と答えた男。 背が二百四十センチはあり、三十五歳の大男。 体格が良く、魔法を使わずとも俊敏に動ける体つきも、程良い筋肉などで伺える。 服装は、動物の毛皮で作った赤の服。 背には、大剣を背負っている。 この男こそ、元テラファリカの騎士の総隊長。 レオハルト・ダグラス 「お前等、…まだ心配してくれていたのか」 下っ端三人は、思わぬ反応に、間の抜けた様な顔をする。 「え…だって賊長は、言うなって」 「確かに、言うなとは言ったが…そうか。それをお前等に言ってから十年経つが、そこまで心配されては怒る訳にもいかんだろう」
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