奈落の底

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豊に出会ったのは3年前だった。 今の部署に移った私の教育係が豊だった。 仕事に真面目で熱心な豊にいつしか心を奪われていた。 彼のほうから告白された時は舞い上がるくらい嬉しかった。 彼は優しくてハンサムとまではいかなくても、それでも充分、魅力的な男性だった。 会社内でモテる彼からの告白は本当に心から嬉しかった。 恋愛のほうが充実すると、仕事も楽しくて気がつくと豊と付き合って3年がたち、私は豊よりも出世していた。 何もかも上手くいってると思っていた私には、豊の心変わりに気がつかなかった。 ただ辛そうに別れを切り出されたら、ショックながら私も豊の気持ちを理解したかも知れない。 あんなに、ただ台詞を棒読みするように別れを切り出す豊に、言い様のない気持ちが溢れだしていた。 (3年も付き合ったのになんで?) (私よりいい女なの?) (私の出世が気に入らないならなんで言ってくれなかったの?) (‥‥‥‥なんで?) (なんで結婚を考えてなんて言ったの?) (‥‥‥‥‥‥なんで?) 疑問だけが私の心を支配していった。
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