海月

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ロビーまで辿り着くのに、そんな時間はかからなかった………と思う。 ロビーに併設された玄関脇にある、小さな談話用スペースの椅子に座ろうとした時、外から波の音が聞こえてきた。   リカルドはあんなこと言ってたけど、この宿屋の立地はかなり良い方だと思う。すぐ目の前が海なんだもの。 でも肝心なのはお代で、今の僕らの手持ちからすれば、なかなかの出費だったみたいだ。はしゃぐイリアとエルマーナとは逆に、手続きを済ますリカルドは苦い顔をしてたし。あと、アンジュもあまり嬉しそうに見えなかったなあ……。   「いい所だなあ」 さっきまでは聞こえなかった、一定の間隔ごとに鳴り響く音に誘われて、椅子の後ろにある窓をのぞいてみるとそこは夜の海の風景。 別に大きいわけじゃないこの窓を通してでも、打ち寄せる波の泡、暗さのせいでかなり曖昧な空と海の境界線なんかが見える。 ……なんか外、出たくなってきたかも…。 正直さっきまでは、ロビーまで来たら戻って寝ようと思ってた。 でも今見ている外の景色が余りに綺麗で、それで、その綺麗さが少し信じられなくて…… 天上が崩壊して、無恵の続くこの地上にもまだこんなに自然の豊かな場所がある。………失いたくない。二度と、もう……。 「よしっ」 椅子の上で膝立ちだった体勢から、すっくと立ち上がる。 はやる気持ちを押さえながら、僕は玄関に置かれていたサンダルに足を通した。
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