32人が本棚に入れています
本棚に追加
しかし、その視線は睨みつけるように実政へとあてられていた。
「うぬは『黒衣の妖』か?」
信長の問いに、実政はうっすらと笑みを浮かべた。
「さようでございます」
信長の表情にも、小さく楽しそうな笑みが浮かんだ。
「では何故我が領地で人殺しを繰り返す?」
この問いに、実政は辺りを見渡す。
皆が見ている中、それらを憶することなく見返し、ぴたりと光秀を見て止まった。
しかし、それも一瞬の出来事で、光秀は更に不審を募らせる。
実政は信長へと視線を戻すと、笑みを引っ込ませ言い放った。
「私は信長殿と敵対したいわけではございません。理由は、あなた様と二人きりになった時にお話ししとうございます」
―――――――――
「殿は一体何をお考えなのかっ」
足音も荒く廊下を進む勝家の後ろを、利家が追いかけるようにして続く。
二人で話をしたい。
そう[黒衣の妖]が告げれば、信長は勝家たちの言葉に耳を傾けることはなく、早々と皆を天守閣から追い出した。
ぎり、と勝家は歯を噛み合わせると、己が普段使っている部屋へと戻ってくる。
上座へどっかりと座りこんだ勝家の前に、利家は腰を下ろした。
「信長様は志(こころざし)半ばにして命をなくしたりしませんよ、勝家様」
最初のコメントを投稿しよう!