第一章

8/12
前へ
/33ページ
次へ
しかし、その視線は睨みつけるように実政へとあてられていた。 「うぬは『黒衣の妖』か?」 信長の問いに、実政はうっすらと笑みを浮かべた。 「さようでございます」 信長の表情にも、小さく楽しそうな笑みが浮かんだ。 「では何故我が領地で人殺しを繰り返す?」 この問いに、実政は辺りを見渡す。 皆が見ている中、それらを憶することなく見返し、ぴたりと光秀を見て止まった。 しかし、それも一瞬の出来事で、光秀は更に不審を募らせる。 実政は信長へと視線を戻すと、笑みを引っ込ませ言い放った。 「私は信長殿と敵対したいわけではございません。理由は、あなた様と二人きりになった時にお話ししとうございます」 ――――――――― 「殿は一体何をお考えなのかっ」 足音も荒く廊下を進む勝家の後ろを、利家が追いかけるようにして続く。 二人で話をしたい。 そう[黒衣の妖]が告げれば、信長は勝家たちの言葉に耳を傾けることはなく、早々と皆を天守閣から追い出した。 ぎり、と勝家は歯を噛み合わせると、己が普段使っている部屋へと戻ってくる。 上座へどっかりと座りこんだ勝家の前に、利家は腰を下ろした。 「信長様は志(こころざし)半ばにして命をなくしたりしませんよ、勝家様」
/33ページ

最初のコメントを投稿しよう!

32人が本棚に入れています
本棚に追加