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「[黒衣の妖]が出たぞー!!!」
時は戦国、織田信長が天下統一を果たさんが為動いていたこの時代。
身近の敵は、北に上杉、西に毛利と油断は出来ない状況だった。
そんな忙しい状況で、ようやく皆が寝静まった頃、事件は起こった。
今宵は満月。
月が照らし出す明かりと、城が燈している灯りで、辺りはうっすらと明るい。
突然、真夜中には相応しくない悲鳴に近い声が響き渡ると、一気に灯りが燈された。
地鳴りがするように響き渡る足音の数。
それはまるで予想されていたような、しかし戸惑いは隠せない足音だ。
領主はもう生きてはいまい。
誰もがそう考えたその時。
ゆらりと、一つの姿が城の頂に現れた。
誰が最初に見付けたのだろうか。特定する間もなく、誰もが叫びだした。
「いたぞ!![黒衣の妖]だ!!」
「頂にいるぞ!!奴は逃げれない、捕まえろ!!」
松明を持って城を取り囲み始めた侍たちを、高さに動じる事なく無表情で見下ろしていた[黒衣の妖]は、ふっと小さく笑った。
嘲笑うわけでもなく、面白いわけでもない笑みを浮かべると、とっと空中へと身を踊らせた。
侍たちは一斉に息を呑んだ。
ただ落下しているに過ぎない姿だが、見ている者全てに落下しているようには見えない。
舞うように見え、そして美しい。
ふわり、と表情が垣間見える場所まで降りてきた[黒衣の妖]が、先程浮かべた笑みをもう一度浮かべた瞬間、突然風が舞い上がった。
強い風に思わず目を閉じた者たちが再び開けた時には、[黒衣の妖]の姿はなかった。
「――化け物、妖めっ」
誰かが低く呟いた声が、真夜中の空へと響き渡った。
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