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織田信長が拠点としている安土・桃山城は、日本で初めての天守閣を備えた城である。
天下統一を成し遂げる為、信長が自ら命令して造らせた天守閣に、今はずらりと信長の重鎮たちが並んで顔を合わしていた。
上座の信長を筆頭に、柴田勝家、丹羽長秀、羽柴秀吉などが見かけられ、滅多に揃う事などない重鎮たちの表情は、険しいものであった。
「未だ[黒衣の妖]は捕まらぬのかっ」
だんっ、と大きな音をたてて床を叩き叫んだのは、信長を幼い頃から見てきた家老、柴田勝家である。
その勝家の隣に座る丹羽長秀の表情も、芳しくない。
低く唸りながら顎に手をやる。
「姿は目撃されているのです。わざわざ手の届く距離にて姿を現すこともあるとか。しかし、身のこなしが人間ではないと。――妖(あやかし)だと、一同が口を揃えるのです」
「ふん、黒い衣を身につけ『呪具』を首にぶらさげ陰陽師の格好、さらに妖か。ならば何故信長様の領主ばかりで次々と殺す必要がある」
「私に言われても」
「まぁまぁ、落ち着いて下さい、柴田殿」
いまにも長秀に食ってかかろうとする勝家に、半ば呑気な声で割って入ったのは羽柴秀吉である。
しかしその表情はいつも浮かべている呑気なものではなかった。
勝家はぎろりと秀吉を睨む。
「これが落ち着いていられるというのかっ。今は天下統一に向けて大事な時ぞ!貴様、信長様に天下を諦めよとでもいうのか!」
「誰もそうは言っておりませぬ」
勝家の言葉に、流石の秀吉もかっとなったのか勝家を睨み付けた。
一気に嫌悪な空気になり、ぴりぴりと肌にも感じられると、重鎮の中でも控えるように座っていた明智光秀は、こっそりとため息をついた。
そっと、上座に座る主、信長を垣間見る。
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