第一章

3/12
前へ
/33ページ
次へ
何も言う事なく、ただ配下が意見を交わすのを見ているだけのその表情は、何を考えているのかは分からなかった。 ――信長様は何をお考えなのか。 確かに勝家の言い分も分かる。 次々と敵地を陥落させている今は、天下に向けて動くのに絶好の機会。 特に北の上杉を陥落させるには今が最善だといえる。 しかし、そこへ[黒衣の妖]が登場した。 次々と領主を殺害する[黒衣の妖]は、敵方に侵入させている隠密の報告によれば、信長の領地にしか出没しないという。 ――信長様にたてつく敵、と見なすのが自然だろう。 光秀はそう思考を走らせるものの、どこか納得をする事が出来ず眉を潜ませる。 ――[黒衣の妖]、一体何が目的だ? その時。 外の廊下が騒がしくなり、「失礼します!」と同時に見張りの兵が顔をだした。 「く、[黒衣の妖]と自ら名乗る者が参っております!!」 部屋にいた全員の動きが止まった。 先程まで騒いでいた勝家せえ言葉をなくし、報告してきた兵を見つめる。 「そ、それは真(マコト)かっ」 一番扉に近い場所にいた前田利家が、ようやく言葉を絞り出した。 全員の視線を浴びて固まっていた兵も、利家の言葉にがくがくと頷く。 「真でございます!!お、恐れ多くも信長様に目通りつかまつりたいと!!」
/33ページ

最初のコメントを投稿しよう!

32人が本棚に入れています
本棚に追加