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この言葉に勝家が怒鳴り声をあげた。
「何を馬鹿な事を言っておる!!目通りなど信長様が許されるわけがなかろう!!捕まえて罪を…」
「勝家、落ち着け」
勝家の言葉を遮るように、静かな声が割って入った。
勝家は口をつぐみ、声を発した人物へと視線をやる。
一同の視線を浴びた信長は、くつくつと低く笑うと口元に孤をえがいた。
「面白いではないか、この信長に会おうというなど。――サル、貴様が連れて来い」
サルというのは、信長が秀吉を呼ぶ時の愛称である。
流石の秀吉もこの行動には危険を察知したのか、「しかし、信長様――」と言葉を紡ぐも、じろりと信長に見られ口を閉じる。
「連れて来い」
この言葉に秀吉も何も言う事なく、静かに立ち上がると部屋をでていく。
先程よりも緊迫とした空気の中、ただ一人楽しそうな信長を見て、光秀は複雑な気持ちで座っていた。
ーーーーーーー
秀吉は兵に急かされるように廊下を進んでいた。
階段さえも駆け降りていく兵に「羽柴様、お早くっ」と言葉を投げられ、小さくため息をつきながらもついていく。
「信長様の好奇心にも困るもんじゃなぁ…」
ぼそぼそと呟きながら、軽く後ろ髪をかく。
信長とは長い付き合いになり、確かに尊敬する殿である。
しかし、時々突拍子もないことをしでかす信長の行動は、家臣を悩ます事も多くあった。
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