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「殿、本当にお会いなさるおつもりか」
秀吉が退室し暫くしてから勝家が信長へ問い掛けた。
未だ楽しそうな笑みを浮かべたまま、信長は勝家を見遣る。
「[黒衣の妖]は信長様にたてつく敵ですぞ。お命が狙われているかもしれない、危険です」
暗に[黒衣の妖]と会うなと告げる勝家に、同意するように周りも何人か頷く。
信長は微かに目を細めると、片膝をたて頬杖をついた。
「うぬらはこの信長がやられるとでも?」
この言葉に勝家達はぐっとつまる。
静かな言葉だが、信長が発するからこそ威圧がある言葉。
誰も逆らえはしなかった。
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秀吉は進んできた廊下を戻りながら、後ろをついてくる人物を気付かれないよう振り返る。
静かに歩く様子や立ち振る舞い、雰囲気など、庶民の育ちではないことが明らかだった。
秀吉は庶民出身だが、信長に仕えるまで随分と長くかかったのを覚えている。
作法など中々覚える事が出来ず、無理矢理叩き込んだものだ。
こうして信長の重鎮をやってる時でさえ危うく出してしまいそうになるぐらいである。
しかしこの――源実政と名乗った男は、生まれた時から大名の家庭で育ったような雰囲気を醸し出している。
思考を巡らせながら、ばちっと視線が合ってしまうと、秀吉は慌てて目を逸らした。
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